先日、知人の商社に新卒で入社した貿易経験ゼロの社員さん向けに、どうやってインコタームズを説明すればよいか相談を受けました。貿易実務の本で知識を得ようとすると、最初に「わからない!」となるのが、英語交じりの文章が出てくるインコタームズかと思います。
貿易の世界で避けては通れない世界共通のルール、それが「インコタームズ(Incoterms)」です。
これは、世界中で使われている貿易の“ルールブック”のようなもの。
たとえば、フランスから日本へお菓子を輸入するとき、「どこまで日本側が責任を持って、どこからフランス側が責任を持つのか」をはっきり決めるためのルールです。
今日の記事は、貿易知識ゼロの人でもわかるような言葉で、インコタームズと貿易条件についてまとめてみました。「EXW」「FOB」「CIF」「DDP」という、インコタームズの中でも目にすることが多い4つの用語を中心に、できるだけわかりやすく説明します。
1. インコタームズとは?
インコタームズとは、”International Commercial Terms”の略で、国際的な売り買い(貿易)で使われるルールのこと。
たとえば、こんなときに必要です。
・日本の会社がフランスの会社からチョコレートを買う
・アメリカの会社にせんべいを売る
・イタリアからチーズを輸入する
世界中にはたくさんの国があり、それぞれの言葉や考え方が違います。
ゆえに、万国共通で使用できるルールが必要なのです。
2. なんのために使うの?
一言で言えば、「誰がどこまで責任を持つかを決めるため」です。
海外との取引では、商品を運ぶ途中で、
・壊れたり
・遅れたり
・輸送が止まったり
と、いろいろなことが起こります。
そういう時、「どちらの会社の責任?」ともめないように、最初からはっきりと「ここまでが売る側の責任」「ここからが買う側の責任」と決めておくのが、インコタームズの役割です。
3. よく使うインコタームズ4つ!
実際によく使われる4つの条件を、簡単な例と一緒に紹介します。
【① EXW(Ex Works)】
→「工場で渡したら売る側の仕事は終わり」
たとえば、東京にある工場で作ったせんべいをアメリカの会社に売る場合、「工場の門の前で商品を渡したら、もう売る側の仕事は終わり!」というのがEXWです。その後の運送・税金・通関などはすべて買い手であるアメリカの会社が手配します。
・売り手の仕事:工場で用意して渡すだけ
・買い手の仕事:そこから先のすべての工程
一番シンプルで売り手にとって楽な条件ですが、買い手には負担が大きいです。
【② FOB(Free On Board)】
→「船に乗せるまで売る側が責任をもつ」
たとえば、東京の港からアメリカにせんべいを送るとき、「船に乗せる」までは日本の会社が責任を持ちます。
そこから先、アメリカまでの船の手配、保険、アメリカ側の関税などは、買う側(アメリカの会社)がやるという取り決めです。
・売り手の仕事:商品を港まで運び、輸出通関し、船に積むところまで
・買い手の仕事:その後の輸送・保険・輸入通関など全部
【③ CIF(Cost, Insurance and Freight)】
→「船代と保険も売る側が負担する」
FOBに似ていますが、もう少し売る側が面倒を見ます。
せんべいを船でアメリカに送るとき、日本の会社が「(船の)運賃(Freight)」と「保険(Insurance)」も負担します。
アメリカの港に着いたあとの輸入通関や、港から倉庫の輸送は買い手の責任です。
・売り手の仕事:港への配送+輸出通関+運賃+保険
・買い手の仕事:アメリカの港での輸入通関手続きと倉庫への配送
【④ DDP(Delivered Duty Paid)】
→「買い手の家の前まで全部売り手がやる」
まるでネットショップで通販した時のように、日本の会社が「あなたの会社の倉庫までお届けします。税金もこっちで払います」と言うのがDDPです。
・売り手の仕事:出荷〜輸送〜保険〜通関〜納品まですべて
・買い手の仕事:何もしなくてOK
いちばん手厚い条件で、売る側の負担は大きいですが、買い手側にとってはこれほど楽な方法はありません。
4. どれを選べばいい?
実際の取引では、以下のように考えて使い分けます。
・売る側が初心者 → EXWやFOBにして、売り手の責任範囲や実務負担を少なくする
・買う側が初心者 → CIFやDDPにして、責任範囲や実務負担を売り手に任せる
・長い付き合いで信頼がある、双方が貿易に慣れている → もっともコストを抑えられる条件を採用して、コストをコントロール
どの条件を選ぶかは、会社の得意・不得意、物流ネットワーク、保険契約などにもよります。
経験が浅いうちは、条件を決定する前に必ず経験者に相談しましょう。
5. おわりに:インコタームズは、責任範囲を明確にするルール
インコタームズは、世界中の貿易で使われている共通のルールです。
簡単に言えば、
・誰が運ぶ?
・誰が保険に入る?
・誰が税金を払う?
という「責任範囲」を明確にするためのルールです。
最初は難しそうに見えるかもしれませんが、数多くの事例に触れて、用語に慣れてしまえばとてもシンプルです。
英語も混ざってきますが、意味がわかっていれば怖がることはありません。
貿易をする上では避けては通れないインコタームズなので、簡単な事例から、少しずつ学んでみてください。
【参考:インコタームズ2020では、以下11の貿易条件が定められています】
・EXW (Ex works):工場渡し
・FCA (Free Carrier):運送人渡し
・FAS (Free Alongside Ship):船側渡し
・FOB (Free on Board):本船渡し
・CFR (Cost and Freight):運賃込み
・CIF (Cost, Insurance and Freight):運賃保険料込み
・CPT (Carriage Paid To) :輸送費込み
・CIP (Carriage And Insurance Paid To):運送費と保険料込み
・DAP (Delivered at Place):仕向地持込渡し
・DPU (Delivered at Place Unloaded):荷卸込持込渡し
・DDP (Delivered Duty Paid):関税込持込渡し
コメント